相続とは、人が亡くなったとき、その人が持っていた財産を、配偶者や子など一定の権利関係にある人が受け継ぐことです。このとき、亡くなった人を「被相続人」、財産を受け継ぐ人を「相続人」といいます。
相続人は原則として亡くなった人の財産の全てを受け継ぎますので、不動産や預貯金などプラスの財産ばかりでなく、借金などマイナスの財産も受け継ぐことになります。
マイナスの財産の方が大きいなど、相続すると不利益を被る場合は、相続を放棄することもできます。ただし、相続放棄をすると最初から相続人とならなかったことになるので、預貯金などプラスの財産だけもらうということもできません。
相続放棄などは一定期間内に裁判所に対し申述書を提出しなければなりませんので、相続人となった場合には速やかに手続きをする必要があります。また、自分の亡き後、身内にトラブルの種を残さないために、遺言を残しておくことも有効な手段です。
このように、いざという時慌てなくてもすむように、相続について事前に考えておきましょう。
遺言には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。
自筆証書遺言は手持ちの用紙に全文、日付、氏名を自署し、押印すればいいので手軽にできますが、記載や訂正の方法に不備があると、遺言として無効になってしまいます。
また、保管場所によっては見つけてもらえない可能性もあります。相続人が自筆証書遺言を発見した場合には、開封しないまま家庭裁判所に持って行き、検認手続きを受ける必要があります。封印してある遺言書を勝手に開封してしまうと、違反者には5万円以下の過料が課せられます。
これに対し公正証書遺言は、公証人役場に出向き(または公証人に出張してもらって)、公証人及び立会人2名以上の前で内容を確認したうえ、署名押印することになります。
自筆証書遺言に比べると手間と費用はかかりますが、公証人役場で作成し、きちんと保管してもらえますので、記載方法の不備で無効になったり、見つけてもらえなかったりという心配がありません。
また、家庭裁判所で検認手続きを受ける必要もありません。
秘密証書遺言も公証人役場で保管されますが、遺言者が予め作成して封印したものに公証人が署名することになりますので、公証人及び立会人に内容を明らかにせず作成することができます。
ただし、自筆証書遺言同様、相続発生後に家庭裁判所で検認手続きを受ける必要があり、記載方法に不備があった場合は無効になることもあります。
相続によって不動産を取得した場合、所有権移転登記をする必要があります。
相続による所有権移転登記を法務局に申請する場合、被相続人の出生から死亡までの戸(除)籍謄本、相続人の戸籍謄本、不動産を取得した人の住民票などが添付書類として必要になります。
また、遺言書や遺産分割協議によって法定の相続分とは異なった割合で相続する場合には、遺言書や相続人各人の印鑑証明書を添付し、実印を押印した遺産分割協議書も必要になります。
相続による所有権移転登記においては、不動産の固定資産評価額の1000分の4に相当する金額を、登録免許税として納付しなければなりません。
◎ 不動産の相続・贈与については「不動産登記」のページもご参照ください。
相続放棄をするには、自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し申述書を提出しなければなりません。
相続放棄が認められると次順位の人が相続人になりますので、皆が債務を免れるためには全員で相続放棄しなければなりません。
- 相続にはどのような手続きがあるのですか?
- 相続人になるのは誰ですか?
- 被相続人の不動産や預貯金がたくさんありますが、遺言はありませんでした。誰が何を相続するかはどのように決めたらいいですか?
- 相続人でない甥や姪に財産を残すことはできますか?
- 母と離婚後、内縁の妻と生活をともにしていた父が亡くなりました。「財産は全て内縁の妻に残す」という内容の遺言書が見つかったのですが、相続人である私は何ももらえないのですか?もらう方法はありますか?
- 相続人の1人に全財産を相続させる内容の遺言書がありましたが、他の相続人が相続することはできませんか?
相続にはどのような手続きがあるのですか?
人が亡くなり相続が発生した場合、相続人が選択できる手続きとして以下の3つがあります。
- 単純承認
- 被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て相続する
- 限定承認
- 被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する手続き。
マイナスの財産がプラスの財産を上回る部分については責任を負いません。
自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
限定承認は相続人全員で行わなければなりません。 - 相続放棄
- 被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て放棄する手続き。
限定承認同様、自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄は限定承認と異なり、相続人は各人で相続放棄をすることができます。相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになりますので、次順位の人が相続人になります。
なお、相続人が相続発生後に被相続人の財産を処分したり、一定の期間内に限定承認や相続放棄をしなかった場合は、単純承認をしたものとみなされますので注意が必要です。
相続人になるのは誰ですか?
相続する人は法律で決められています。配偶者がいればその人は常に相続人になりますが、その他は以下の順位に従うことになります。
第1順位 直系卑属(子や子が既に死亡している場合は孫など)
第2順位 直系尊属(被相続人に子がいない場合、父母など)
第3順位 兄弟姉妹(子や父母などがいない場合)
なお、相続する順位や他の相続人の人数によって、それぞれの相続分が決まります。
また、被相続人の遺言がある場合は、遺言の内容が優先されることになります。
被相続人の不動産や預貯金がたくさんありますが、遺言はありませんでした。誰が何を相続するかはどのように決めたらいいですか?
相続人全員の協議によって、どのように相続するかを決定することができます。これを遺産分割協議といい、法定の相続分によらずに割合を決めることができます。
遺産分割協議書には全員が署名押印(実印)し、印鑑証明書を添付しなければなりません。
なお、当事者間の協議が整わない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることもできます。
相続人でない甥や姪に財産を残すことはできますか?
はい。自分の亡き後、相続人でない人に財産を残したいという場合、遺言にその旨の意思表示をしておけば、財産を残すことができます。ただし、相続人の遺留分の権利を害することはできません。
遺留分というのは、被相続人の財産のうち相続人に残さなければならない割合のもので、被相続人が贈与などをしても相続人が留保できるものです。
兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を請求でき、遺留分の割合は、相続人が父母などの直系尊属のみの場合は相続財産の3分の1、その他の場合は2分の1になります。遺留分権利者にあたる相続人が数人いる場合には、
全体の遺留分割合(2分の1もしくは3分の1)に法定相続分を乗じた割合が、各人の遺留分割合になります。
例えば、相続人が妻と子二人という被相続人が、「甥に全財産を残す」という遺言を書いていた場合、基本的には遺言通り甥が全財産を譲り受けることになりますが、遺留分権利者たる妻や子から遺留分に関する請求(遺留分減殺請求)があった場合には、
以下の割合については遺留分権利者に復帰することになります。
妻の遺留分割合→相続財産×1/2×1/2
子(1人あたり)の遺留分割合→相続財産×1/2×1/4
この請求は、内容証明郵便による通知や裁判所における手続き(調停や訴訟)などによってすることができます。
遺留分減殺請求は、意思表示によって受贈者や受遺者の権利を失わせることになりますので、いつまでも認めることは適当ではなく、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、
もしくは相続の開始から10年を経過した時は時効となり、請求できなくなります。
母と離婚後、内縁の妻と生活をともにしていた父が亡くなりました。「財産は全て内縁の妻に残す」という内容の遺言書が見つかったのですが、相続人である私は何ももらえないのですか?もらう方法はありますか?
相続人以外の人に相続財産を譲るという内容の遺言があった場合でも、兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分を主張することによって相続財産を譲り受けることができます。
遺留分についてはこちらで説明しています。
相続人の1人に全財産を相続させる内容の遺言書がありましたが、他の相続人が相続することはできませんか?
できます。相続人全員による遺産分割協議で合意が得られれば、遺言で指定された人とは別の相続人が相続したり、遺言とは異なった割合で相続することができます。